たたら製鉄の工程
タタラ製鉄の作業工程は以下のような手順である。
まず膨大な量の樹を切り、山から運び出して炭焼が木炭を作る。同時に川や山から大量の砂鉄を採集する。砂鉄採集は、当初は「竪穴掘り」と呼ばれた露天掘り、後に「鉄穴流し」と呼ばれた水路設置による分離法(比重選択法)に発展する。大量に採集しなければならないため、大変な重労働であった。これは、「鉄穴師」と呼ばれた者たちによって担われた。
始めに炉床を深く掘り、石と炭を多層的に詰めて窯状の床を築く。この地下で、土を乾燥させるべく二ヶ月を要して徹底的に炭を焼く。この際、わずかな湿気があっもよい鋼は出来ないと言う。
次に、粘土によって作られた窯であるタタラ炉を設置する。ここに木炭をくべて火を焚き、砂鉄を放り込みながら炉に空気を送り込み、一五〇〇度以上の高温を保つ。これを指揮者の「村下」一人(表村下・裏村下として二人制の場合もあった)、「炭坂(炭焚き)」二~三人程度の交代制で行う。
送風は、数十人を動員して手動のふいごで行っていたが。中世になると六人程度で稼働する「踏みふいご」が出来る。近世には更に改良され、二人ですむような「天秤ふいご」が出来た。作中に登場するのは、「踏みふいご」である。交代制でふいごを踏み続ける重労働を担う者を「番子」(「代わり番子」の語源か)と呼び、力自慢の荒くれ者が多かったらしい。
このように、一工程の操業には最低十人は必要であった。三日四晩不眠不休で炉を燃やし続け、ふいごを踏み続けると、砂鉄はようやく溶けて鉄の塊となる。これを「ケラ(金へんに母と書く)」と言う。タタラ炉を取り壊してケラを取り出す。この一行程を「一夜」と呼ぶ。
極上の真砂砂鉄で作られた鋼鉄は「玉鋼」「和鋼」などと呼ばれ、刀剣類や武器・農具に加工された。これらの鉄塊を取り出す前述の製鉄法を「ケラ押し法」と言い、これが最も高度な技術を要する製鉄法である。
その残りは「錬鉄」と呼ばれ、「左下法」と呼ばれる製鉄法で取り出され、鍛冶が包丁などに鋳造した。
これとは別に、赤目砂鉄で作られた鋼を「銑鉄」「鋳鉄」と呼び、「銑押し法」と呼ばれる製鉄法で取り出され、鋳物師の手によって鍋釜に加工された。
以上の三様式が、典型的なタタラ製鉄の行程である。
このようにタタラ製鉄には、伐採・運搬・炭焼・砂鉄採集・炭焚き・タタラ踏み・鍛冶・鋳物師などの諸職が不可欠で、当然大人数による産業共同体を構成していた。彼らは、平地の稲作農民からは「タタラ者」「山内者」などと呼ばれていた。
ここまでの生産工程は江戸時代までに完成されていました。
たたら製鉄の立地条件とは・・・かなり特殊な地域に限定されていたようです。
タタラ製鉄の集落を構えるための立地条件は、何より水と樹木に囲まれた地であることである。
まず、膨大な砂鉄を採掘出来、木炭の原材を提供する森林の際であることが必須条件である。また、鉄塊の水冷作業が出来、船輸送に便利な水際でなければならない。
また、急激な森林伐採により山崩れや鉄砲水などの人為的災害を引き起こす製鉄民は、平地の稲作農民からは嫌われていた。この為、人里離れた山中で作業を行う方が都合が良かった。中世以前は、地と水のせめぎ合う地や、人気のない山奥は「人と神々の境界線」として崇拝する傾向が強かったため、「神ががりの職能民」としての位置も保てたのである。
たたら生産にはこうして多くの水や樹木が必要だったのです。
記録によれば、一回のタタラ製鉄で砂鉄十九トンと木炭十五トンが消費され、出来る鋼はわずかに五トン程度であったと言う。炉の新設時には、炉床の基礎工事と地盤乾燥に一五〇トンもの薪を焚く。一回の製鉄作業に一山丸ごと消費するとも言われた。まさに「山が鉄を作る」のである。
製鉄の歴史は古く、稲作発生以前とする説もある。人類は、製鉄技術を開発したことで、森を切る速度を格段に速くすることとなった。鉄製の農機具と調理器具を開発して安定した食料を得た。鉄製の武器を開発して大量殺戮と部族抗争の果てに大国家を作り上げた。しかし、その結果として、自らの首を絞めるほど環境を破壊してしまった。
中国や西アジア、ヨーロッパなどで進行する砂漠化・禿山化は、もとは製鉄(初期は製銅)で樹を切り過ぎたためとも言われている。太古の彼の地では、樹を植える習慣もなく、森林も復活しなかったのである。文明は森を伐って栄え、伐り尽くして滅んだのである。
たたら民と農民の戦い
平地の稲作農民にとって、鉄穴の泥と排水を下流に流し、山を崩して自然災害を引き起こすタタラ者は、天敵であった。出雲には、スサノオノミコトが火炎を吐く大蛇を退治する伝説がある。これを被害に苦しんだ農民が大和朝廷に訴え、製鉄民が平定された話―とする解釈は多い。
最近の考古学では、弥生時代以降、日本の森が急激に減ったことが明かにされている。日本の稲作は、弥生時代以降に全土に広がったわけだが、当初の開墾時期にはすでに鉄製農具が使われている。稲作と同じ時期に、製鉄も発生したのである。鉄器で森を切り、焼畑と鉄製農具によって開墾された稲作地帯が急増したのだ。
いくら照葉樹林地帯でも、人の手による開拓が余りに急激であれば、樹が生える余裕はない。邪馬台国の謎の移動も、製鉄で失われた森を求めてのものだったとする説もある。
急流と水が豊かな日本の河川は砂鉄を多く産み出し、たたら製鉄という独自の製鉄技術を生み出した。
そしてそれはその後の世界に冠たる日本の工業史の始まりでもあり、自然破壊の始まりでもあったのです。(by tano)
投稿者 tano : 2007年01月13日 23:49
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tanoさん、ありがとうございます!
もっと調べたいなぁ~って思っていたんです!
すごく詳しいですね。
しかし、一製鉄に一山とは。。。><。
「文明の影に、環境破壊あり」ですね。
投稿者 みつこ : 2007年01月14日 18:51
長い記事を読んでいただいてありがとう!
みつこさんの課題をとってしまったようで(--)”
でもこのブログ(もののけ姫を読み解く)は文章が読みやすくて長くてもすらすらと読めます。→ぜひお勧めです。
これだけ森林破壊が進んでも何度も回復してきた日本の森の生命力にも驚きですね。
投稿者 tano : 2007年01月16日 01:15
たたら製鉄自体は全世界に見られます。しかし日本以外は、鉄鉱石を原料にしていました。日本でも古い時代、一部鉄鉱石を原料としているところはありましたが、砂鉄原料を主流とするところが最も特徴的なところだと聞きました。
投稿者 神輪 : 2007年01月28日 09:37
日本のたたら製鉄は出雲地方(島根県東部)の安来-奥出雲地方が弥生時代以降一貫して盛んだった中心地です。そこの和鋼博物館の資料によると、
「砂鉄は鉄鉱石(どちらも酸化鉄)に比べ火力が低く還元できるため、日本のたたら製鉄では鉄を溶融することなく還元するいわゆる直接製鋼法に相当するものが発達した。溶かすことなく鉄をつくるため、鉄に有害なイオウやリンなどの不純物が少ないものが出来、日本刀などの鉄製品の優秀性を支えた。また、明治以降の機械化された戦争においては、武器の優秀性を支える特殊鋼が重要になったが日本海軍主導のもと、特殊鋼の国産化を目指すべく日本全国で最も優秀な原料鋼を探索したところ、出雲地方のものであった。それも基本的には不純物が少ないことに起因していた。」ようです。
投稿者 アシタカ : 2007年02月12日 08:57
今も安来には日立金属という高級特殊鋼メーカー
がありますね。なるほどそういう歴史的流れだった
のですか。ありがとうございます。
投稿者 徹甲戦士 : 2007年04月26日 23:31
たたらが真の自然破壊のスタートとは思えません。真の自然破壊のスタートは産業革命以後だとゴア米国副大統領もいっている。破壊とは元に戻し難い、あるいは戻せないという意味があるので、どうせ正確に今の地球温暖化の現状をふまえ鉄つくりで考えると高炉がクローズアップされてしまうのです。
投稿者 共存たたら : 2007年10月10日 22:54
徹甲戦士さん、共存たたらさんコメントありがとうございます。
>真の自然破壊のスタートは産業革命以後だとゴア米国副大統領もいっている。
ゴアさんの言うことだから正しいというのはいかがでしょうか?私にはゴアさんはどうも不都合な真実をたくさん隠しているように思えるのですが・・・。
>破壊とは元に戻し難い、あるいは戻せないという意味があるので・・・。
共存さんが言うように元に戻しがたいという意味では砂漠化をもたらした農業や遊牧等も自然破壊と呼べるのかもしれませんね。農業を発明して人口を増やすことができるようになって破壊は始まっています。
実際、最大の自然破壊は農業であるという説も流布されていますし。
投稿者 tano : 2007年10月13日 20:31
私は最近、出雲大社に行ったことがあります。そのついでに島根県立古代出雲歴史博物館へ、行ってきました。石見銀山の世界遺産登録記念の催しものもありましたが、金色に輝く古代の大刀の感動しました。これは安来市かわらけ谷というところで発見された鉄製で柄が金色の装飾を施している豪華なものです。古墳時代の他の刀も展示されていましたが千年以上もたち錆でぼろぼろでしたがこの大刀は奇跡的に錆びずに発見されたそうで、ああこれが古代の輝きというものかと感動してしまいました。
投稿者 額田部 : 2007年10月17日 21:48
金色に輝く大刀!
錆びずに発見されるなんて、すごいですね。
私も見てみたいですぅ。
投稿者 みつこ : 2007年10月23日 21:25
「たたらは環境破壊だ!」と言う方が多くみうけられますが、じつはそうではないのです。いま危機が表面化してきている地球温暖化にたいして木炭を使用するバイオマス製鉄で有望な技術ともいえます。
そもそも地球温暖化は、地下に眠っていたCO2のもとになる炭素=化石燃料を人類がエネルギーとして大量に消費してきたことに問題がある。自然界の循環で出来た植物はもともと大気のCO2を吸収してできたもので自然界を循環している、循環性の炭素を利用しているのがたたら製鉄だからです。
投稿者 梶岡 : 2008年06月01日 23:27
半年前の投稿にコメントをいただきありがとうございます。
読んでいただいている人がいるんですね。
なるほどco2を出す事が問題なのではなくて、大量消費こそが問題の本質なんですね。バイオマス製鉄調べてみます。
投稿者 tano : 2008年06月03日 22:59